野村克也氏が気づいた「成長が止まる人・成長し 続ける人」の違い

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今年2月、惜しまれつつ亡くなった、プロ野球史に輝く名将・野村克也氏。『上達の技法』は、弱小球団を何度も勝利に導いてきた氏の「最後のメッセージ」が詰まった一冊だ。現役時代、人一倍「不器用」だったという野村氏。そんな氏が、なぜ球界を代表する選手になれたのか? 己の不器用さに悩む人に勇気を与える、金言をご紹介しよう。
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人一倍「不器用」だった私

不器用な選手は、人と同じような練習をしていても上達しない。だから私は、他の選手が100回素振りをすれば、200〜300回の素振りをした。キャッチングにしろ、配球の研究にしろ、とにかく私は「人の2〜3倍の練習をする」ことを自分に課していた。

現役時代、私はカーブを打つのが苦手だった。ストレートを待っていて、カーブが来ようものなら体勢を崩して空振り。いつもそんな調子だったから、試合中はよく「カーブの打てない、ノ・ム・ラ!」と野次られたものだ。

器用な選手はストレート待ちの状態から、「カーブだ」と思うと一瞬グッと体を溜め、変化球にタイミングを合わせるのだが、私にはそれができなかった。本当に不器用を絵に描いたような選手だったのだ。

しかし、一軍でそれなりの成績が残せるようになってから、私は「自分は不器用だからこそ、ここまで成長できたのだ」と気づいた。それからは不器用を恥じることなく、「俺は本当に不器用だな」と積極的に認めるようにした。

すると不思議なことに、「だったらこうしなくては」「こういうやり方もあるな」と、それまで以上に不器用を克服するための研究や対策を熱心にできるようになった
器用すぎると大成しない

不器用だからこそ成長できるのだ」ということがわかってくると、昔は「器用がいい」と思っていたのに、「器用はいいことばかりではないな」ということも理解できるようになった。

まず、器用な人は大抵のことはあまり努力しなくてもできてしまうから、そこで満足し、成長も止まってしまう。また器用さは、往々にして自分への過大評価を招く

それが時に「欲」となり、自分の力以上のものを求めることにもつながる。それが要らぬプレッシャーとなり、失敗を招くきっかけになってしまうことが少なくない。

人間は欲が出ると、結果ばかりが気になるようになる。一打逆転の場面で打席が回ってきた時に「ここでヒットを打とう」という思いだけならいいのだが、欲が出ると「失敗したらどうしよう」と、要らぬことまで考えるようになってしまうのだ。

私もそうだったが、不器用な人はチャンスが巡ってきた時に変な欲が出ず、「いっちょ、やったるか!」とその場面で最善を尽くすことだけを考える。何事もそうだが、「無欲」で目の前の物事に取り組むことによって、「いい結果」は後からついてくる。

結果よりプロセスを重視せよ

私はいつも選手たちに「根拠のあるプレーをせよ」と言い続けてきた。だから、そのプレーがたとえ失敗に終わったとしても、そこに正しい根拠があるのならOK。結果に至るまでのプロセスを私は重視し、その方向性さえ間違っていなければまったく構わないと思っていた。

監督時代、私はピッチャーが打たれて負けたとしても、あるいはバッターがチャンスで三振しても、その結果だけを見て選手に文句をつけたり非難したりしないように気をつけていた。

結果はダメだったとしても、そこにしっかりとした根拠があり、なおかつ正しい努力をしているかどうか。プロ野球選手として大成するには、そういったプロセス重視の考え方が大切で、正しいプロセスを経ていれば短期的にいい結果が出なくても、長期的にはいい結果が表れてくるものなのだ。

「人間は成功すること(結果)より、努力すること(過程)に意義がある」。現役、監督時代を通じて私はこのように思ってきたし、これは私の人生観でもある。プロフェッショナルの「プロ」は、プロセスの「プロ」でもあるのだ。

とはいえ、結果至上主義の今の世の中では、プロセスよりも結果を重視する人のほうが多い。特にプロの世界は「結果がすべて」だと言われる。

しかし先述したように、「結果がすべて」のやり方で短期的にはうまくいっても、いい状態を長くキープし続けるのは難しい。

野球に限らず、どの競技もそうだと思うが、日々の練習、努力というものは単純な作業の繰り返しが多く、面白くないし、退屈である。しかも、努力を続けたからといってすぐにいい結果が出るとも限らない。
「努力」に即効性はない

それなのに、いつも「いい結果」ばかりを求めていたら、そんなに都合よく結果が出るわけではないので、努力するのがバカらしくなってしまう。

だから、今の結果至上主義の世を見わたしてみると、物事を途中であきらめたり、投げだしたりしてしまう人のなんと多いことか。これは「いい結果」ばかりを求めた末の、必然の流れである。

私は選手たちにいつも、「努力には即効性はない」と言っていた。努力したからといって、すぐにいい結果が出るわけではない。しかし、地道な努力を続けている人間と、何もしないで遊んでいる人間とでは、1年、2年後にものすごい差が出てくる。『アリとキリギリス』ではないが、長期的展望に則ったプロセスを経ていくことが重要なのだ。

この「プロセス重視」の考え方は、選手の育成だけでなく、監督の育成にも大きな影響を及ぼす。

「組織はリーダーの力量以上には伸びない」と私は昔からよく言っているが、裏を返せば球団は力量のある優れた監督を育てることが必要で、監督が育たなければ優れた選手も育ちはしない。

しかし、近年のプロ野球各球団は世の流れにならって、どんどん「結果重視」の考え方になっている。だから、ちょっと成績が低迷すれば1年、2年で簡単に監督のクビを切ってしまう。

そんなプロ野球界にあって、福岡ソフトバンクホークスは2019年に5年契約を満了した工藤公康と新たに2年間の契約を結んだ。このような長期政権は今のプロ野球界では異例の人事だが、なぜホークスが日本シリーズ3連覇を成し遂げるほど強くなったのか? 他球団はもっとしっかりと考えてみる必要があるだろう。

野村 克也(野球解説者)

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