「『自分の頭で考える』って、どういうことなんだろう?」「頭が良い人とバカな自分は、いったいどこが違うんだろう?」
偏差値35から東大を目指して必死に勉強しているのに、まったく成績が上がらず2浪してしまった西岡壱誠氏。彼はずっとそう思い悩み、東大に受かった友人たちに「恥を忍んで」勉強法や思考法を聞いて回ったといいます。
「東大生は『生まれつきの頭の良さ』以前に、『頭の使い方』が根本的に違いました。その『頭の使い方』を真似した結果、成績は急上昇し、僕も東大に合格することができたのです」
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頭の良い人は、頭をどう使っているのか? 「自分の頭で考える」とは、どういうことなのか? 「頭の良い人」になるためには、どうすればいいのか?
そんな疑問に答える新刊『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』を上梓する西岡氏に、1年に約100人しか合格しない「東大理3」生の「頭の使い方」を紹介してもらいます。
■東大の中でも「理3」は別格
「やっぱり東大理科3類(理3、主に医学部に進学)の人は、モノが違う……」
東大の中にいると、そう思い知らされることが非常に多いです。1学年3000人いる東大生の中でも、やはり理3の約100人は「まったく別種の頭の良さ」を持っているのです。
東大理科2類の合格者平均点は353点/550点。それに対して理科3類の合格者平均点は411点/550点と、50点以上の差があります。
センター試験にいたっては、なんと850点/900点、割合にして95%取れている人が大多数(いずれも2019年)。ほぼ満点近い点数でないと、理3には合格できないのです。
学内で話していても、「あ、これはもう頭の出来が違うな」と感じてしまいます。それはもちろん僕だけではなく、他の東大生の間でも共通の認識になっています。
では、東大理3の人は、本当に生まれたときから頭の出来が違うのでしょうか? 実はそうとばかりは言い切れないのです。彼らは、僕たちにも真似できる、非常に有効な「頭の使い方」をしていたのです。
今回は、「本当に小さいころから神童だった東大理3合格者」だけでなく、なんと5浪もして理3に合格した東大生を含む、多くの学生にインタビューをした結果見えてきた、「東大理3に受かる人の頭の使い方」をご紹介したいと思います。
■すべての日常生活を「本番のための訓練」にする
東大理3に受かる人の頭の使い方1:常に本番を意識する
まず、東大理3の人の勉強法に関して言えるのは、「常に本番を意識している」ということです。日々の勉強を、ただの練習だととらえるのではなく、「本番のための予行練習」だととらえているのです。
「入試では、この項目はどんなふうに問われるんだろうか?」「この問題が本番で同じように出てきたとき、自分は解けるだろうか?」
こうした視点を持ちながら、勉強している学生が多いのです。
僕も含めて、普通の受験生はそこまでの意識を持てません。たとえば数学の問題で計算ミスをしたとしても、「あ、ミスしちゃった。次から気をつけよう」くらいしか思えません。ただの練習で、ちょっとしたミスをしただけだからです。
しかし東大理3の人は、「これが本番だったら、このミス1つで落ちている可能性があった」「こういうミスを二度としないように、どうすればいいか考えよう」と本番に活かせるように練習しているのです。
これは、一流のトップアスリートにも共通することだそうです。どんな些細な練習でも、常に本番のための練習だということを忘れない。常に本番を意識して練習するというスタンスは、勉強以外にも活かせることなのです。
東大理3に受かる人の頭の使い方2:日常のすべてから学ぶ
東大理3の人は、文字通り「何でも」本番につなげる思考をしています。
たとえば街を歩いていても、「看板に書いてあるあの漢字、今年の入試で聞かれるかもしれないな」「あの広告に書いてある英単語、意外な意味としてこういうのもあったよな。忘れないようにしなきゃ」「車のナンバー、1456か。これを因数分解するとどうなるだろう? 計算スピードを速くして本番に臨みたいな」といった感じで、どこからでも何からでも「学ぼう」「本番のために活かそう」という意識を持っているのです。
2浪、元偏差値35から東大に合格した僕は、「頭が悪い状態」から「頭が良い状態」まで、全部を経験した人間です。そんな僕は、この「どこからでも何からでも学ぼう」という姿勢こそが、「頭の良い人とそうでない人とを分ける決定的な要因」なのではないかと考えています。
机の上でだけ勉強しようとするのではなく、自分の身の回りのことやさまざまなニュースからも何かを学ぼうとする、つまり「日常生活からも学ぼうとする姿勢」を持つこと。「あ、このシェールガスのニュースは、この前地理で学んだ石油の勉強と同じだな」「この台風は地学で学んだとおりの進路だな」というような目線を持てるかどうかで、頭の良さは変わってくるのです。
東大理3に合格する人の勉強法は、その象徴だと言えるのではないでしょうか。
■「本番」を徹底的に想定する
東大理3に受かる人の頭の使い方3:あらゆることを徹底的に想定する
次にご紹介したいのは、彼ら彼女らの圧倒的で徹底的な「本番想定力」です。実は、東大理3の合格・不合格を分けているポイントはここなのかもしれません。
「受験勉強というと、多くの学生は364日間の『練習』のほうにばかり気を取られているけれど、実際に一番大切なのはたった1日の『本番』。つまりは、入試当日に結果を出せなければ、何の意味もないんだ」。とある東大医学部生は、そんなふうに語ってくれました。
僕も経験があるのですが、本番でお腹が痛くなったり、気分が悪くなったり、ペンを持つ右手を負傷してしまったり、隣の人の貧乏ゆすりがうるさかったりと、試験には多くのトラブルが付き物です。でも、それを「運が悪かった」と言ってしまっては、ただ不合格になるだけです。
本番の1日に、いかに結果を出すか。彼ら彼女らは、それを徹底的に考え抜くのです。たとえばある人は風邪をひいたときに「しめた。風邪をひいて普段の実力が出せない状況で、どれくらいの結果が残せるのか検証しておこう」と、東大の過去問を解いてみたそうです。またある人は、「右手を負傷してしまったときのために」と、左手で文字を書く訓練をしていたとか。
さらに、これが一番僕が驚いた点なのですが、本番のシミュレーションが本当に緻密なんです。机の大きさや隣の人との距離、本番で使われている紙のサイズ、解答欄の大きさなど、試験会場の状況を徹底的にリサーチして、練習においても「本番と同じサイズの紙」を用意したり、「本番と同じサイズの机」があるところを探したりしているのです。
これはもしかしたら、医者という「あらゆる職業の中で1番、本番で失敗できない職業」を志す人が多いからなのかもしれません。ただ頭がいいだけではなく、プロのアスリート並みに本番をシミュレーションして、本番の1日で結果を出せるように徹底的に対策する。東大理3の人は、この本番対策が緻密なのです。
東大理3に受かる人の頭の使い方4:ライバルを徹底的に意識する
最後にご紹介するのは、「ライバルを徹底的に意識する」というものです。「ライバルを意識」というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、この方法が特殊なのです。
今回取材に協力してくれた中に、5浪して昨年、東大理3に入った山本赳久さんという方がいます。彼は受験生時代から「阿修羅」という名前でツイッターをやっています。そのフォロワー数はなんと1万5000人以上。彼はこのツイッターを活用しながら勉強していたというのです。
「私は広島県の出身で、東大を目指す受験生なんてほとんど周りにいなかったのですが、ツイッターでは、東大を目指すライバルと簡単に出会うことができました。ツイッターでは自分の成績や、自分がどんな勉強をしたか、自分が苦戦した問題などを投稿する人が多いので、私もライバルの成績や勉強を覗き見したり、ライバルに自分の成績や勉強を見てもらっていました。『ライバルはこんなふうに勉強しているのか』『もっと頑張らなきゃ』というモチベーションにつながったのです」
たしかに現在、勉強記録をツイッターやインスタグラムにあげる人は多く、その中には東大をはじめとする上位の大学を目指す人も少なくありません。というか、東大生ってめちゃくちゃツイッタラーが多いです。
少し前まで、都市部から離れた地域や東大を目指す人が少ない学校では、ライバルを見つけることは難しいとされていました。毎年100人しか合格できない東大理3ともなれば、なおさらです。だから、ツイッターを通していろんなライバルと出会うことができれば、大きなメリットになるのです。
「でも、ライバルを見つけるなんて、そんなに意味があるの?」「ツイッターをやっている時間で勉強したほうがいいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、実はそうではありません。ライバルがいることの効果は絶大なのです。
■最高の勉強法は「悔しがる」「恥をかく」ことだ
たとえば今回取材した人の中には、灘高校出身の人もいました。灘高校は、毎年20人以上の東大理3合格者を輩出している超名門校です。
「じゃあ灘高校って、いったい何がすごいの? そんなに素晴らしい教育が行われているの?」と問うと、多くの学生が「もちろん授業はすごいんだけど、一番はやっぱりいいライバルがいることだよ」と言うのです。
東大理3ともなると、目指す人だって少ないです。そんな中で勉強していると、多くの学生は「自分より上の成績」の人に会えなくなってしまいます。そうすると、「こんな感じでいいか」と勉強にも張り合いがなくなってしまうのです。
より上を目指すためには、「あいつはもっとやってる!」「自分よりも努力している奴がいるんだ!」と知ることができたほうがいいのです。
5浪理3の山本さんは、「僕はツイッターを、恥をかくためのツールとして使っていました」と言います。「自分より上の成績の人を知ったり、自分の不甲斐ない成績や勉強を他人に共有して、恥ずかしいと思う。それが原動力になって、より勉強に打ち込めるのです」。
たしかに、自分が間違えて悔しかった問題や恥をかいた問題は、その感情とともに覚えていることが多いです。逆に、「自分が一番だ」と有頂天になったり、「この問題の間違いはケアレスミスだ」と恥ずかしさをごまかしたりすると、成績は伸び悩んでしまいます。「悔しい」「恥ずかしい」と思えるのは、ライバルがいることの大きなメリットだと言えるでしょう。
「『受験は自分との戦いだ』と言う人がいますが、個人的にはあの言葉は好きではありません。もちろんそういう側面があることは否定しませんが、けっきょく受験は他人との戦い。本番や、そこで戦う他人やライバルを意識する中で、自己が成長することもあるのだと思います」
戦いの神である「阿修羅」をツイッターのアカウント名にしている山本さんは、そんなふうに述べていました。
本番を徹底的に意識し、日常のあらゆる場面で研鑽を積むことで結果を得る。この姿勢は、受験や勉強以外でも役立つはずです。皆さんもぜひ、実践してみてはいかがでしょうか?
西岡 壱誠 :現役東大生