台湾のオードリー・タン(唐鳳)デジタル担当相が2020年7月27日、オンラインで記者会見を開いた。新型コロナウイルス対策で注目を集めた唐氏だが、現地と東京・丸ノ内の日本外国特派員協会を結んで行われた今回の記者会見では、サイバー空間での中国の脅威に関する言及も目立った。
通信インフラに中国製設備を導入することのリスクを強調したのに加えて、「サイバー攻撃」に関する質問には、中国発の「偽情報(disinformation)」、いわゆるフェイクニュースの危険性を指摘。ファクトチェックを通じて注意喚起することで、その影響は減らせるとの見方を示した。
■アップグレードのたびに「バックドア」仕掛けられるリスク
唐氏は7月15日掲載の日経アジアン・レビューのインタビューで、通信インフラの核心部分に中国製品を導入することについて、
「中国には純粋な民間企業など存在しない。中国からすれば、与党は状況が変わればトップを交代させることができる」
「もしインフラにそれら(中国関連企業)を含める場合は、システムを更新するたびに細心の注意を払わなければならない。システムにトロイの木馬の侵入を許し、ネットワークを脆弱(ぜいじゃく)にするかも知れないからだ」
などと述べていた。
台湾では14年に第4世代(4G)の通信ネットワークが本格的に稼働し、その際に中国製の設備を事実上排除している。唐氏は記者会見で、当時の経緯を
「(中国の設備の)性能が劣っているといったことではなく、中国には『民間企業』がない、という認識に至ったからだ」
などと説明した上で、中国の設備を導入した際には、システムをアップグレードするたびに「バックドア」と呼ばれる、セキュリティー上の抜け穴を仕掛けられるリスクがあるため、
「全体のコストが他のベンダーに比べて高くなると考えられる」
とした。
「台湾のソーシャルメディアで組織的な偽情報キャンペーン」
唐氏が考える「サイバー攻撃」は、ネットワークに侵入したり、障害を与えたりする事象にとどまらない。記者の
「台湾の総統選の期間中に中国からのサイバー攻撃はあったか。もしそうならば、その攻撃をいかにして防いだのか」
という質問に対して、唐氏は「サイバー攻撃は文字通り毎時間のように行われており、質問への答えは『イエス』だ」と応じる一方で、防御システムが機能しているため、大きな脅威にはなっていないとの見方を示した。さらに唐氏は
「これは伝統的なサイバーセキュリティーの感覚からすれば、厳密にはサイバー攻撃ではないが…」
と断った上で、香港での抗議活動をめぐって
「台湾のソーシャルメディアで、組織的な偽情報キャンペーンを確認している」
と指摘した。
その一例としてあげたのが、19年11月に拡散した「警官殺し」の投稿だ。
「香港凶悪犯の報酬を暴露 『警官殺し』に最高2000万!」
と題した書き込みで、抗議活動の参加者には報酬が支払われていると主張する内容だ。
この書き込みをめぐっては、台湾のファクトチェック団体「台湾ファクトチェックセンター」が、情報を最初に投稿したのが中国共産党の「中央政法委員会」の微信(ウェイシン)アカウントだったことや、書き込みについていたロイター通信の写真に、元々のキャプションとは別の説明がつけられていたことなどから、「誤り」だと結論づけている。
唐氏は、こういったファクトチェックの結果、偽情報に関する注意喚起をすることができたと指摘。ソーシャルメディアも対策に協力したこともあって、
「(18年に台北や高雄で行われた)市長選に比べれば、(20年1月の総統選では、偽情報の)影響はずっと少なくなったと思う」
とした。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)