コロナ第二波の到来で、学校の休校も現実味を帯びてきています。先の自粛期間中は、突然のことで準備も心構えも不十分で家で子どもの学習が思うようにいかなかったという家庭も多いでしょう。同じ轍を踏まないように、三男一女が東京大学理科三類に合格した佐藤ママこと佐藤亮子さんに、家庭で親が心がけるべきことを聞きました。
【ノウハウぎっしり】佐藤ママの子育ての「黄金ルール」とは?
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――コロナ禍で、子どもを取り巻く環境は激変しました。オンライン学習の便利さを実感する一方で、家ではなかなか子どもが勉強に集中できなかったという話もききます。
佐藤さん(以下、敬称略):このコロナ禍は大変な状況ではありますが、あたらためて家庭学習の重要性に気づくきっかけになったのではないでしょうか。これまで、学校や塾に「おまかせ」で、子どもの勉強の実態がみえにくかった。それが今回、家で子どもの学習の進捗具合を目の当たりにして、親の責任や役割の大きさがはっきりしたと思います。今後は、親の関わり方次第で、学力は二極化していくとみています。
自宅で、塾や学校のオンライン授業を受けるときには、親は「見ておいてね」とパソコンやタブレット端末などのツールを子どもにただ与えるだけでは不十分です。道具さえ与えておけば、勉強をしていると安心してはいけません。学校では時間割やチャイムという制約がありますが、何も制限がない家の中では気が緩む一方で、楽な方に流されていく恐れは十分にあります。子どもは自らを律して物事を進めることはできません。今回、家庭でこどもの様子をつぶさにみてよくわかったのではないでしょうか。
自粛期間中、子どもの日常生活は混沌としたものになってしまいました。勉強する場所は、リラックスしている家の中で、いつ始めていいし、いつやめてもいいような状態です。そのような状況では、怠惰な日常を積み重ねるだけになってしまいます。
――具体的にどうすればいいのでしょうか。
佐藤:やはり、親が家の中に意識的に「秩序」を作る必要があります。なんの具体策もなく漫然とその日をすごすだけでは、子どもはいつまでたっても学ぼうとはせず、学力は当然向上しません。毎日をきちんと生きるためには、一日のスケジュールを決めて、大きな紙に書き、リビングなどのよく見える場所に貼り出だしておくことです。その決めたスケジュールをこなすためには、勉強を開始する時間にアラームを鳴らすのも有効です。音でケジメをつけるというのはおすすめです。
そして、子どもが勉強をしているときは、親御さんは仕事をしながらでもいいので、側にいてあげてください。特に、子どもに勉強を教える必要はありません。ただ側にいることが大事なのです。
――勉強を教えるわけでもないのに、親が子どもの側にいるのにはどんな意味があるのでしょうか。
佐藤:「自ら考えて学ぶ」という作業は大変孤独なのです。その孤独の中で、一人で思考して初めて内容が自分のものになります。
例えば、塾、学校、家庭教師の先生にわからない問題の解き方を教わると、子どもは「あー、なるほど」とその時には思いますが、実は理解した気になっているだけの場合が多いのです。誰かに解き方を教えてもらうだけでは、決して自分で答えを導けるようにはなりません。テストでいい点も取れませんし、受験で合格はできません。これが、塾に行って、さらに家庭教師の先生にも習っているのに成績が上がらない理由です。
人からどれだけ解説を聞いても、自ら一人でやってみないと解けるようにならないのです。非常に大変なのですが、やはり一人で問題と向き合い、「何でこうなるのか」「どうやったら解けるか」を自分の頭で考えて、自ら答えを導き出す。その積み重ねでしか、学力は身につかないのです
一人で問題と対峙して、自分の頭でああでもない、こうでもないと考える。そうして初めてやっと賢くなります。その過程が孤独でつらい作業なのです。ノートの中では孤独に頑張らざるを得ませんが、ノートの外側までも孤独にしては、子どもはノートの中の孤独に耐えられないのです。だから、子どもが勉強中は親はぜひ側にいてあげて、無言で応援してあげてほしいと思います。
人間は誰でもそうですが、特に子どもはつらいことからすぐに逃げ出してしまいます。そうなると、今の時代、友だちと勉強を教えあう、わからないこと聞くという理由をつけてスマホで連絡を取り合ったり、SNSをのぞいでみたりします。すると、いつの間にか勉強とは関係ない「おしゃべり」に発展し、1時間も2時間も過ぎていた……なんてことになってしまうというのは最近のよくある親の悩みです。
孤独に耐えて勉強しないと知識は身につかない、でも、子どもはつらいものから逃げがち。だから親が側で「見守る」必要があるのです。勉強から逃げた子どもを責めるのではなく、いつも寄り添う覚悟を持っていただきたいと思います。
―一日じゅう家にいるとどうしても、だらけがちです。「秩序」を保つ秘訣はあるのでしょうか。
佐藤:わが家の子どもたちは大学受験のとき、センター試験から東大の試験までの40日間を自宅で勉強しました。その経験からお話しすると、まず大人が時間を守ることが大事だと思いました。
毎日のスケジュールで朝食を7時と決めたら、きっちり7時にさっとごはんを食卓に出して食べさせる。ここが重要なポイントで、7時5分でも7時10分でもだめなのです。
今日は、7時だったけど、明日は7時15分で、次の日は7時5分に朝食、というのは、たかが5分、10分違いなのにと思われるかもしれませんが、このわずかな時間が子どものやる気を削ぐのです。ただでさえ、家の中はだらだらと時間が流れがちです。家の雰囲気を律するには、5分、10分の違いは大きいですよ。お母さんが忙しいときには、昨日の残り物でもいいので、とにかく時間を守り7時ちょうどに出すことです。
何事もスタートが肝心です。決めた時間に「よーいドン」で始められるようにするとその1日がきちんとしたものになります。昼食、夕食も同じように始める時間を守り、24時間を規律正しいものにすることです。
親が時間に厳しい態度で臨まなければ子どもは動きません。高校生でもそうですから、小中学生はなおさらです。そして毎朝、「さあ!今日も元気よく頑張りましょう!」と明るく声をかけてくださいね。
――先の見えないコロナ禍で大人も漠然とした不安を抱いています。このような状況下での受験生やその親にアドバイスはありますか。
佐藤:先が見えないときには、目の前の見えるものだけに集中することです。先のことを心配しても仕方がありません。「目の前のやるべきものをいかにしっかりやるか」です。今やるべきことをしっかりつかんで離さない握力が試されるときなのです。
昨日のことも明日のことも考えない。今日一日をいかに生きるかに集中する。今年はいつもより早め早めに人生を回すつもりで。後回し、先延ばしは危険です。
(聞き手/AERAdot.編集部 鎌田倫子)