「自分が感染源にならないために」医師が“食事 の場”で実践している6つのこと

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これまでマスクを付けることに慣れていなかった人でも、そろそろマスクに
馴染んできたのではないでしょうか。というより、マスクをしないでいると、何
となく不安になるような、あるいは物足りなくなるような意識になる人も多いと
思います。

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でも、そんな人でもマスクを外さなければならないシーンがあります。

歯磨きと食事――。

特に食事は、色々と不自由なことばかりの自粛生活の中において、数少ないやすらぎの時。しかし、憎き新型コロナウイルスは、そんな束の間のやすらぎの場をも狙い撃ちしてきているようなのです。

暗い話題ばかりの中で、こうした記事を書くのは心苦しいのですが、特に高齢者や要介護者と同居している方には知っておいてほしいこの情報――。

今回は、「食事の場での感染リスク」についてのお話です。
「食事に介助を必要とする人・介助する人」は要注意

「病院や介護施設でのクラスター感染が増えていますが、中でも“食事の場”を介して感染が広がっている可能性が指摘されているのです」

と語るのは、東京都保健医療公社荏原病院耳鼻咽喉科医長の木村百合香医師。同医師によると、食事の場が一緒だったり、介護職員による食事介助などを通じて感染したと見られる症例が散見されるようになってきたというのだ。

介護施設で「食事の場」が一緒になるのは分かるが、病院での食事はそれぞれの病床でとることが多い。個室でなくても、食事の時はカーテンなどで遮蔽するので、感染は起きにくいような気もするのだが……。

「高齢者が中心の場合、たとえ急性期病院でもデイルームで食事をとるところもあります。また食事介助が必要な人はもちろん、認知症などで“食べ物を詰め込み窒息や誤嚥を起こすリスク”がある患者さんなどは、看護師などが声をかけながら見守るケースもあります」(木村医師、以下同)

こうしたシーンでむせたりすると、微細な液体あるいは固体の粒子であるエアロゾルが発生する。もしその人が感染者だと、ウイルスを含むエアロゾルが近辺に漂うことがある。その時間はときに数時間に及ぶこともある。院内感染、施設内感染の温床となるには十分すぎる条件なのだ。

この状況を受けて日本嚥下医学会では、嚥下障害が疑われる患者への食事介助において、新型コロナウイルスへの感染の有無に関係なく、次の注意を呼び掛けている。

■集団での食事は可能な限り回避し、それが困難な場合は「座席の間隔をあける」「食事時間をずらす」「対面を避ける」などの措置をとる

■患者からの飛沫とエアロゾルの発生と、お互いの接触を最小限とするため、摂取方法を検討したうえで介助は「側方」から行い、食事中の会話も最低限とする

■摂食の時間は患者の疲労度に合わせて長くても30分を限度とする

――など。

しかし、これは「食事に介助を必要とする人」に限ったことではない。

ここに来て家庭内感染が増加していることは周知のとおり。家庭内で特に危険なのが「食事の場」だと木村医師は警鐘を鳴らす。
「家庭内での食事」は飛沫感染の最大のリスク

「食事の時は誰もマスクをしていません。そして食事の場は本来“楽しい場”。出社や登校を制限され、不要不急の外出を自粛せざるを得ない状況でも、家庭内での食事はだんらんのひと時であって、誰もがリラックスする場であるはずです。でも残念なことに、いまはそこでの会話が飛沫感染の最大のリスクなのです」

そこで木村医師に、家庭内で食事の場での感染を防ぐためにすべき理想的な食事形態を解説してもらった。

■正面同士向かい合うように座らない

■できれば壁に向かって並んで座り、1.5m以上間隔をとる

■食事中は会話をしない

■窓を開ける

■できれば時間をずらす

■嚥下機能に問題がある人の食事は、柔らかくする、とろみをつけるなど「飲み込みやすい工夫」をする

特に「飲み込み」がうまく行かない高齢者などの食事の対応は、「ちょっとやり過ぎかな?」と思うくらいの気遣いが必要だ。

そう呼び掛ける木村医師自身、食事の場での感染防止には人一倍気を遣っている。
自分自身が感染源にならないために

「職場での食事は周囲の人と十分に距離を離して、一人でとっています。もちろん食事中(マスクを取っている間)は一切会話もしません。新型コロナウイルスの感染が拡大する以前は、子どもたちと近所に住む高齢の両親と一緒に夕食をとっていました。でもいまは、家族が夕食を終える時刻に帰宅して、一人で食事するようにしています」

元々「家族や仲間と会話を楽しみながらおいしい肉料理を食べるのが趣味だった」と語る木村医師にとって、この対応は大きなストレスでしかないのだが、自分自身が感染源になるリスクを思えば、耐えざるを得ないという。

「いまはまだそうした事態に至ってはいませんが、いずれ新型コロナウイルス陽性の患者に、感染リスクの高い気管切開などの医療処置を講じることがあるかもしれません。そうした業務に従事した時点で、子どもたちは実家に避難させる予定です。周りにも家庭から自己隔離をしている医療従事者が多くいます」
緊急時の取り組みに、「やり過ぎ」はない

今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、医師や看護師など医療従事者が、それこそ命がけで診療に当たっている姿があらためて浮き彫りになりました。

しかし、実際には「診療」という外から見える部分だけでなく、家庭に帰って、本来一息つける場面でも、緊張を強いられているのです。

木村医師は言います。

「食事の時は、一人物思いに耽るようにしましょう。つらいけれど、6週間頑張ればだいぶ景色は変わるはずです」

この記事を読んで「やり過ぎだ」「大袈裟だ」と思う人もいることでしょう。

でも、いまは平常時ではなく「緊急事態」です。

緊急時の取り組みに、「やり過ぎ」はないのです。

長田 昭二

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