高級車を買い占める「超富裕層」を見て、私は所有欲が失せた

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税理士法人ネイチャー国際資産税の代表税理士・芦田敏之氏は、総資産数億円、数十億円の「超富裕層」の人々と接する中で、あることに気づいたといいます。 ※本連載では『日本一働きやすい会計事務所』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋し、解説していきます。
億の大豪邸や高級車を多数所有…お金持ちの世界

真のお金持ちを見て思ったことは

◆本当のお金持ちと接する中で変化した価値観

ネイチャーグループの事業の核となるのが、社名にもあるとおり「国際資産税」です。資産家に対して税制面でアドバイスすることを基本に、以下のような業務に携わります。

主なクライアントは企業ではなく個人の資産家です。億を超えるような資産をお持ちだという富裕層の方も少なくありません。単に確定申告の書類を作成するのではなく、相続や不動産投資、金融債権の運用、資産管理会社の会計業務また民事信託など、富裕層が抱える悩みに対して広範囲なサービスを提供できるようさまざまな知識を要します。

また、そうした富裕層は海外に不動産を所有していたり、あるいはお子さんが留学していたりするケースも多く、「ハワイの不動産に投資したい」「シンガポールのコンドミニアムの購入を検討している」「イギリスに留学する子どもに送金したい」などのご相談を受けます。そうした相談に対して、「国内の税制や事情しか知りません」では通用しません。世界各国の税制にも精通し、国内外の金融機関との幅広いネットワークを持っていることが、当社の強みになっているのだと自負しています。

◆トップアスリートのトレーナーのような存在

プライベートバンク(PB)をご存じでしょうか? 発祥はスイスで、資産額が一定以上の富裕層を対象とした特別な金融機関です。保険や不動産、信託、証券など総合的に資産の管理や運用サービスを提供し、日本では、三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券、UBS銀行、クレディ・スイス銀行などが有名どころです。

もちろん、私自身もこの業務に携わるようになるまでは、PBなどまったく未知の世界の話でした。しかし、今ではこうした国内外のPBに口座を持つような顧客も多くいます。

ハワイに数億円という大豪邸を持っていたり、フェラーリのような高級車を何台も保有していたり、あるいは雑誌『Forbes(フォーブス)』の長者番付に載るような人たちです。

そうした大金持ちと付き合いのある会計士や税理士などの士業の人のなかには、経営者や資産家から「先生」と呼ばれているうちに、まるで自分もお金持ちになったかのように錯覚してしまう人がいます。しかし、ここで決して勘違いをしてはいけないと私は思っています。

私たち税理士や会計士は、スポーツ選手のトレーナーのようなものであるべきだというスタンスでいます。トップクラスのアスリートとして海外でも活躍するようなプロの選手には、専任のトレーナーがついていますよね。

筋肉のある部分に疲労が溜まっていることを見抜いて、マッサージをしてほぐす。あるいは、この部分の筋力をアップすれば、今よりもスピードやパワーがアップできるということを知っているので、そのためのトレーニングメニューを考案する。また、選手に迷いがあればコミュニケーションをとって解決するなどメンタル面もサポートします。

このように、選手が最大のパフォーマンスを発揮できるように、サポートするのがトレーナーの役割です。

でも、その選手がすごいのは「自分のおかげ」とか、「自分も選手と同様にすごい」とは思いません。あくまでもすごいのは、トップアスリート本人の能力であり、トレーナーはそれをサポートしているに過ぎないことを知っているからです。

私たちも同じで、資産家が最大限のパフォーマンスを発揮するために、いかにサポートするかが業務であって、いくら「先生」と呼ばれても勘違いしてはいけないと思っているのです。

お金持ちを間近で見て痛感「個人の富には限界がある」

◆個人の富には限界があることを知った

私は、たくさんの大金持ちの方々と接することで、逆に自分が目指すべきゴールはお金持ちではないと思うようになりました。お金持ちとひとくくりに言いますが、なかには資産数十億円という人もいれば数千億円という人もいて、結局上を見てもキリがありません。

その思いを決定づけたのは、フランス・パリのベルサイユ宮殿を見たことです。ネイチャーを創業後まもなく、スイスに出張する機会があり、以前からどうしても見たかったパリのベルサイユ宮殿にスイスから日帰りで行きました。

ベルサイユ宮殿は、ルイ14世時代に最高潮を迎えたフランスの栄華の象徴であり、世界で最も華麗な宮殿といわれます。その贅を尽くした内装や庭園を眺めていたとき、ふと「個人の富には限界がある」と感じたのです。

私がビジネスをしている目的は、「もっとお金を貯めるにはどうすればいいか?」「もっとお金を稼ぐにはどうすればいいか?」を追求して、クライアントである資産家に追いつくことではありません。

クライアントに対して、「いかにしてより良いサービスを提供できるか?」。そして経営者として一緒に働いている人たちに対して「いかに良い環境を提供できるか」――。この2つが、私の人生におけるプライオリティの高いところに位置するようになったのです。

ベルサイユ宮殿での体験は、ビジネスへのアプローチはもとより、パーソナリティや価値観をも変える大きな転機となりました。
「自分で稼げばお金なんてなんとかなる」

◆幸せのモノサシはお金ではない

人生の価値や幸福について考えたとき、お金をたくさん持っている人のほうが幸せで、価値が高い人生を送っているかといえば、必ずしもそうとはいえないと思っています。

私のお金に対する考え方を読者の方々に理解していただくために、少しだけ昔話にお付き合いください。

私が生まれたのは神奈川県横浜市で、父は300人ほどの従業員が働く会社の社長でした。そこそこ大きな邸宅に住むお坊ちゃんだったわけですが、そんな時期はほんの束の間のこと。私が小学2年生のときに父の会社は倒産し、邸宅住まいから小さなアパート暮らしになりました。

両親は別々に暮らすようになり、母は女手一つで私たち3人の子どもを育ててくれました。間近で苦労する母の姿を見て育ちましたので、物心ついてからお小遣いをもらったり、親からお金をもらったりすることはありませんでした。

高校時代、どうしても大学に進学したいという気持ちはありましたが、受験費用はもちろん、入学金や学費は出してもらうことが難しい状況でした。しかし、そのときにはすでに、サポートを受けるのが当たり前という人生ではなく、サポートを受けずに自分の力でやっていくことが身についていたので、自分で学費を稼ぐためにさまざまなアルバイトを経験しました。

365日、昼夜を問わずアルバイトをして、その合間に勉強するような状態でした。コンビニやカラオケボックス、年末の繁忙期には、上野のアメ横で魚屋さんのアルバイトもしました。

そんな話をすると、「苦労したんですね」とか「大変でしたね」と、よく言われるのですが、実は私はそんなに大変だったとは思っていません。お金がない人は、働くのが当たり前だと思っていたし、働きさえすればお金は稼げます。

こうした子ども時代からの体験は、私にとってとても良かったと思います。苦労したとか、大変だったというネガティブな体験ではなく、人からサポートを受けたり、与えられたりするのではなく、自分で稼げばお金なんてなんとかなるということを、身をもって学ぶことができたからです。

大学時代は、アルバイトをしながらよく起業家や創業者の本を読んでいました。特に、ソフトバンクの孫正義、マイクロソフトのビル・ゲイツの起業物語はダイナミックでワクワクして読んでいました。小説のようなフィクションの世界ではなく、実在する人物について語られた成功物語はとても魅力的に感じたのです。

自分の技量と力で人生を切り開いていく姿に共感したものの、自分が起業家になりたいとか、会社を立ち上げたいと思っていたわけではありません。父が事業に失敗しているからかもしれませんが、借金をして一か八かの勝負に出る起業家のようには自分はなれないと感じていたからです。

「起業するよりは、サポート役の税理士の仕事が自分には向いているんじゃないか」そう考えたのが、今の道に進むきっかけとなりました。

人の幸せは「年収900万円」で頭打ちする?

◆高い収入で満足度は上がるが幸せは買えない

その後、大手会計事務所に就職しましたが、最初の頃はアパート5棟に投資して数億円の資産を持つクライアントにお会いしただけで、びっくりしたものです。それはもう住む世界が違うなと。今ではそんな資産家のお客様とのお仕事が常になってきました。なかには二桁も三桁も上の資産を持つクライアントもいらっしゃって、上を見だすと本当にキリがないなと思います。

では、その数百億〜数千億円を手に入れたいかといえば、そういうかたちでお金を追い求めることが、自分の性に合わないことはわかっています。だから、お金持ちと比較したり、背伸びして競争したりする気持ちはありません。お金は幸福度を計るモノサシではないのです。

そんな私の考えを裏付ける研究結果もあります。それが、行動経済学者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの「収入と幸福度の関係について」の研究です。

2004年にアメリカで行った調査では、世帯主の年収が5万ドル以上9万ドル未満(1ドル120円換算で600万円以上1080万円未満)までは、所得が増えるほど幸福度も上がっていきました。ところが、年収5万ドル以上9万ドル未満の人たちと、年収9万ドル以上を稼ぎ出す人たちの間では、幸福度に明らかな差が見られなくなりました。

さらに、同調査では「いくら稼げば満足するか」という聞き取りも行っていますが、暮らしに対する満足度を10段階で自己評価する「生活評価」の数値は、年収が増えるにつれ一貫して上昇しました。しかし、「昨日笑ったか」など「感情的幸福」の度合いは、年収7万5000ドル(1ドル120円換算で900万円)前後で頭打ちになりました。

これらの実験結果から、カーネマンは「高い収入で満足は得ることができるが、幸せは買えない」とし、さらに収入に対する自己評価というのは多くの場合、他者との比較から導かれているため、比較対象によっては、いくら稼いでも幸せを感じられず人生に不満が残ると結論づけています。

つまり、何億円稼ごうともそれ以上に稼ぐ人と自分を比較してしまえば、幸福感や自己評価が下がってしまうということをノーベル経済学者が立証したわけです。

私も多くの富裕層の方々を見すぎてしまったこと、さらには子ども時代の経験から、他人との比較からは、自らの幸福感が得られないことを学びました。他人と比較するのではなく、自分なりの人生の価値や楽しみに気づくことこそが、幸福な人生を送るための第一歩といえます。そうした意味でも、勉強と学費稼ぎに明け暮れた学生時代も私にとっては、決して苦労などではなく、むしろ自分でお金を生み出すことへの充実感があったように思います。

翻って、現在、私にとっての幸せや充実感を計るモノサシこそが、クライアントの満足感であり、会社で働く人たちの成長や働きやすい環境づくりの提供にあるというわけです。

大金持ちの姿を見てきたことで、「所有欲が失せた」

◆人生で大事にしたいと思うこと

大手会計事務所という安定した職場から独立して会社を立ち上げたのは、国際資産税という私の得意分野において、クライアントに対してスピーディーでより良いサービスを提供したいと考えたからです。

ですので、ビジネスから得られる利益や富を独占しようという気持ちはありません。お金を貯めようとか、あるいは、売り上げ目標何百億円とか、大きな富を得るような夢をもって経営者になったわけではありません。あったとしても使い道が思いつかないのです。

お付き合いのあるクライアントの方々が身を置いているのは、1本100万円のロマネコンティ1ダースを10ケースオーダーするような世界です。身につけている腕時計もフランクミュラーとか、パテック・フィリップどころではなく、オートクチュールで世界に数本とない希少なものです。そんなたくさんの大金持ちの方々の姿を見てきたことで、逆に所有欲が失せてしまったのかもしれません。

私の経営者としてのプライオリティは一にも二にも、クライアントへのサービスの向上と、働いてくれる人たちの幸せです。少しでも利益が増えれば、働く人の給料を上げたいと考えますし、ワーク・ライフ・バランスが崩れていると感じれば、少しでも残業を減らしたり、休日を増やしたりしたいと考え、これまでも実践してきました。

創業から7年で従業員の人数も増え、仕事の量も数も右肩上がりで伸びています。しかし、もう少し人が増えればもっとクライアントへのサービス・クオリティを上げられるのではないかと考えています。またさらに人を確保することができれば働き手の残業を減らし、休日も今よりもっと増やせるようになります。

優秀な人材が今よりもっと増え、より良い環境の中で働き手がお互いに切磋琢磨していけば、クライアントへのサービス向上にもつながりますし、さらに大きな案件も増えていきますので、働き手にも給与というかたちでさらに還元することもできます。

景気が上向きになった企業の多くが、働き手に還元せずに内部留保を溜め込んでいるのが現状です。もちろん会社の成長や、いざというときの備えに、一定の内部留保は必要だと思いますが、必要以上に貯め込むことはしなくてもいいだろうと思っています。

働いている人たちに良い環境を提供することで、クライアントに提供するサービスのクオリティをさらに高めるという好循環を生み出すには、会社を成長させることが経営者の命題だと考えています。クライアントや働き手などの幸福感を高めるためには、どうしても人材が必要となります。

◆経営者として何をすべきかについて365日考える

私が得意としていることが一つあります。それは継続することがまったく苦にならないということです。たとえば英語です。

社会人になる前から「これからは絶対に英語の時代がくる」と思い、アルバイトで貯めたお金で4カ月間、語学留学をしました。就職後も英会話学校に通い、独立して社長業を続けながら今でも毎週通っています。

皆さんも覚えがあると思いますが、社会人になってからはじめた習い事は、たいていは半年か長くとも1年くらいしか続かないものです。「今日は雨だから」「昨晩、飲みすぎて体調が悪い」「仕事が詰まっているからやめておこう」など、行かない理由を考えて、やがて通わなくなってしまいます。心理学的にはセルフ・ハンディキャッピングと呼ばれ、自らに言い訳をして意欲をそいでしまうのです。

私にはそれがなく、雨が降ろうが槍が降ろうが、年末年始だろうが、苦もなく英会話学校に通っています。そしてその英語力が税務能力と掛け算となって、国際資産税という誰にも負けない強みとなりました。

そして会社経営にあたり、一つ決めたことがあります。それは「クライアントや働き手のために何をすべきか」を365日考えることです。人材を育て社員が幸せになる、クライアントが喜んでくれる。解決すべき課題があれば、解決策が見つかるまで考え続ける。途中で諦めることなく、継続することができます。

芦田 敏之

税理士法人ネイチャー国際資産税

芦田 敏之

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