本当に頭の下がる思いですが、同じ日本人として誇らしいですね。
岡山理科大学の養殖したウナギを地元百貨店の中元商戦で販売したところ、
「脂の乗りがよく、ふっくらとしている」と評判となり、完売した。同大の生命
動物教育センターではこれまでも多数の高級魚の養殖に成功している。秘密は、
海水魚・淡水魚どちらにも使用できるという、海水でも淡水でもない“第3の水”
と徹底した「閉鎖環境」にあるという。【写真でみる】加工品を使った盛り付けイメージ
■「どこでも養殖」
地元デパート、天満屋(岡山市)との共同企画で売り出したのは、中元用のウナギの加工食品。約250グラムに育ったウナギ約750匹を、かば焼き用▽うな丼用▽ひつまぶし用−にそれぞれ加工し、3食分セット5400円で販売した。天満屋の広報担当者は「天然のウナギより脂の乗りがよく、ふっくらとした食感で臭みがない」と絶賛。300セットを用意したが発売から約3週間で完売した。
このウナギの養殖に欠かせないのが、同センターが使用している人工飼育水「好適環境水」。同大工学部バイオ・応用化学科の山本俊政准教授(61)が平成17年に研究を始め、18年に開発。改良を加えてきた。
海水に含まれる中でも魚の飼育に必要なナトリウム、カリウム、カルシウムなどを水道水に配合して作る。配合割合は魚の種類で異なるが、海水魚、淡水魚のいずれにも適用できる。
同センターでは、水槽に独自の濾過(ろか)装置、濾過材を設置。閉鎖された環境で外部から病原菌が持ち込まれにくいため、自然界よりも魚は病気にかかりにくく成長も早い。
好適環境水と閉鎖環境で、同大はこれまでウナギのほかクロマグロ、トラフグ、ベニザケなど10種類以上の魚の養殖に成功した。山本准教授は「この設備があれば、海のない山間部、内陸部、どこでも養殖ができるようになる」と説明する。
■偶然から始まった
好適環境水の開発はひょんなことがきっかけだった。
山本准教授は大手金属メーカーの研究職を経て独立し、観賞魚の飼育業に従事。全国の水族館に観賞魚を納品していたが、飼育の技術を買われて14年、同大付属の専門学校に講師に招かれ、後に同大に異動した。
着任当時「学生の研究のための海水が不足していた」(山本准教授)。内陸部のため海水を車で運ばねばならず、学生同士が海水の取り合いで、つかみ合いのけんかに発展したこともあったという。
そんな中、学生の一人が、淡水魚の餌に使う海産プランクトンを、淡水で育てる実験を行った。予想に反して繁殖に成功したが、実は学生が培養容器をよく洗わず、前の実験で残っていた海水がわずかに付着していたことが判明した。
ごく薄められた海水でプランクトンが育つなら、海水魚にも応用できるのではないか−。そう考え、海水の中で魚の飼育に必要な成分を絞り込む研究を進め、好適環境水の開発につなげていった。山本准教授は「研究なんて、そんな偶然から始まるもの。最初から高い理想を目指したわけではない」と振り返る。
■「研究はもうからないと」
同センターが設立された22年から10年間、山本准教授が追求してきたのは生産性だ。
例えば、マグロは1キロの肉を取るのに15キロの餌が必要。鶏は4キロで足りる。ウナギは1・5〜1・6キロ。この数値を「増肉係数」と呼び、低いほど生産性が高い。
さらに水槽の単位体積あたりの取れ高や、販売価格も計算し、ここ最近はウナギ、フグ、クエ(ハタ)といった高級魚の飼育に注力している。
山本准教授は「もうからなければ研究ではない。安く、安全でおいしいものを食べていただくことが価値のある研究。ここを未来型の魚工場としていきたい」と意気込む。
今年は10月に始まる鍋シーズンに向けて、ハタ1500匹を新たに出荷する予定だという。
仮に他国が真似しても、日本は、安く、安全という付加価値で負けないのが一番です。