コロナ対応を巡り、激しい舌戦を繰り広げる小池百合子都知事と菅義偉官房長官。菅官房長官が「(国内感染者増は)東京の問題」と仕掛ければ、小池都知事は感染拡大防止策を「冷房」、「Go Toキャンペーン」を「暖房」に例え、「冷房と暖房の両方をかけている」とやり返す。しかし、この“暗闘”の裏には、ある企業を巡る金の匂いがして――。
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「菅官房長官の意向」7月19日、菅官房長官はフジテレビ系の報道番組「日曜報道 THE PRIME」に出演した際、ある計画について述べた。
「お台場に、機動隊のオリンピック用の宿舎があって、これをベッドに改造して4月中に完成している。約800室。ここも最終的には使うことができる用意はしている」
東京都江戸川区、江東区、大田区の湾岸部に建設中だったプレハブ宿舎計4カ所を改修し、コロナ感染者向けの一時滞在施設とする計画が報道されたのは去る4月のことだった。この件について東京都とやり取りを行った「現場指揮官」は、総理大臣補佐官で菅官房長官の「懐刀」と言われる和泉洋人氏。厚労省幹部の大坪寛子女史との「コネクティングルーム不倫」を「週刊文春」に暴かれた、あの人だ。
「和泉さんは当初、都側に対して『プレハブ宿舎を軽症または無症状のコロナ感染者向けの療養施設として活用せよ』との指示を出していました」
と、政府関係者が明かす。
「しかし、都側は『軽症者、無症状者向けの滞在施設は十分足りている』と回答。すると和泉さんは、『軽症者向けの施設ではなく、中等症患者向けの臨時医療施設として活用する』『実際の運営は都にやらせるが、都の意向如何によることなく、施設整備を進める』と方針転換した」
菅官房長官の意を受けて動く和泉補佐官はなぜそこまでプレハブ宿舎の活用にこだわるのか。都側から困惑の声が漏れたのは当然の成り行きだったが、そんな折、和泉補佐官の口から告げられたのは、
「プレハブで医療行為にあたる運営主体は、菅長官の意向により、『湘南美容クリニック』(SBCメディカルグループ)に既に内定している」
「『湘南美容』の創業者でグループ代表の相川佳之氏の内諾も取れている」
との衝撃的な事実だった。
「菅官房長官と相川さんは『幻冬舎』の見城徹社長を通じた知り合いで、度々会食する間柄だと聞いています」(湘南美容クリニックに詳しい関係者)
「金の匂い」
医師たちが次々と登場して「好きな言葉」を披露するCMで有名になった「湘南美容クリニック」。自身もクリニックの“顔”としてCMに出演、好きな言葉として「情熱」をあげた相川氏が神奈川県藤沢市に最初のクリニックを開設したのは2000年である。それからわずか20年でSBCメディカルグループは全体で100院を展開するまでに急成長した。相川氏がメディアのインタビューに答えたところによると、グループの売上高は美容医療市場ではトップ。全国の医療法人の中でも23位に入っているという。
が、利益優先で拡大のみを指向してきた同グループは悲劇をも生み出している。13年、本誌(「週刊新潮」)が「『ヒアルロン酸』お粗末手術で鼻が壊死した『湘南美容外科』」とのタイトルの記事でお伝えしたのは、初歩的な施術ミスによって鼻の一部が“溶けた”20代女性の悲痛な声だった。
そんな光と影を抱える「美容整形業界の雄」が、呼吸器系の専門でもないのに、なぜコロナ対応を――。誰もが頭に浮かべる疑問について、前出の政府関係者はこう解説する。
「実は『湘南美容』は最近、保険適用の一般医療の分野にも進出しており、相川さんは現在の目標として『総合医療グループとしての世界ナンバー1』を掲げているのです。相川さんとしては、コロナウイルスの治療にあたったという実績が欲しいのでしょう」
和泉補佐官は都側に対し、“プレハブ宿舎で医療行為にあたるのは、SBCグループの医療法人の一つであり、東京・両国にある湘南メディカル記念病院”と、伝えていたというが、
「この病院は戦前に両国の地に『田島病院』として開設され、その後、両国駅前病院と改称されたものをSBCグループが15年に買収。内科などの一般医療を行う総合病院の世界に手を伸ばす先駆けとなった病院です」(先の湘南美容クリニックに詳しい関係者)
もっとも、いくら総合医療の分野に進出しようと、このグループに通底する「理念」は不変である。
「今年2月に『週刊東洋経済』に載った記事によると、湘南メディカル記念病院では自由診療で、充分なエビデンスもないのに高額な『がん免疫療法』を行っており、“73%のがんを縮小させた”と主張しているようです」(同)
やはり「金の匂い」がするのだ。
都は猛烈に反対
「湘南メディカル記念病院を強引に押し付けようとする和泉補佐官に対し、都側は猛烈に反発しました」
と、先の政府関係者。
「『国立病院か、もっとまっとうな医療法人にして欲しい』と主張する都側に対し、和泉補佐官は『国立病院は独自の役割があるからダメ。他の医療法人は人員を出す余裕がない』として拒否。さらに都側が『公募で選定すべきだ』と主張するなど、運営主体を巡る攻防がありました」
そのうちに感染自体が落ち着いたこともあり、この計画は宙に浮いた格好になったという。そのため、
「即時の計画スタートがなくなったとのことで、政府はわざわざ相川さんに詫びを入れている」(同)
幻冬舎・見城社長が仲介これまで表沙汰にならなかったこうした一連の経緯について、当事者たちは何と言うか。取材依頼に対する各者の回答は次の通り。
「厚生労働省から、(SBCメディカルグループを)運営主体候補の1つとして紹介されていたことは事実です」(東京都)
「政府の発表の内容以外に当社からお答えできかねます」(SBCメディカルグループ)
「厚生労働省と東京都で検討した結果、(プレハブ宿舎の)医療施設としての利用は考えていないと、5月に聞いています」(菅義偉事務所)
相川氏に菅官房長官を紹介した「幻冬舎」の見城社長はこう語る。
「私が会長のような役割で『義士の会』という菅さんを囲む経営者の会を主催していて、2年から2年半ほど前、そこに相川を呼んだのが菅さんと相川の最初の出会い。この会は年に2回ほど開催しており、相川は毎回参加しています」
件の「計画」については、
「コロナがここまで大変なことになる前くらいに相川から『菅さんに、治療のための施設に入る医療法人を公募することになったら応募して欲しい、と言われた』といった話を聞いたような気がします」
「計画は今も生きている」自宅で取材に応じた和泉補佐官に、「湘南美容グループ」がプレハブ宿舎で医療行為にあたるのか、と質したところ、
「それは一時あったんだけど、今は消えた」
――湘南美容といえば、美容整形が主体だが?
「実はすごく幅広くやっているらしくて、病院もやってるらしいよ。総合医療もやっている」
――菅官房長官と相川氏は懇意だと聞いたが?
「へえ、そうなんだ。それは知らない」
要は「計画」はすでに過去のものとなっている、と言いたいようなのだが、
「計画は今も生きており、病院の中等症患者の受け入れが逼迫した時、実行に移されることになっている。菅さんが東京のホテル不足を繰り返し叩くのも、この計画にこだわっているからこそ、です」(前出の政府関係者)
専門家「間違いなくトラブルが」
菅官房長官や相川氏にすれば、検査の拡充で東京都の感染者が再び増大し始めた今こそチャンスというわけだろう。現在、都内のコロナ患者の療養にあたっている東京都医師会の幹部はこの計画について「知らされていない」とした上でこう警告する。
「コロナの治療を『湘南美容』がやるなんて荒唐無稽。間違いなくいろいろなトラブルが起こりますよ」
日本美容外科学会元理事長で日本医科大学名誉教授の百束比古氏は、
「『湘南美容』が新型コロナに関わろうとする理由は、美容外科医も医師であることを世間に理解してもらい、美容外科のイメージアップを図る狙いがあるからでしょう。そのような人的余裕があることは羨ましい限りです」
と推し量るが、医療法人社団・形成会「酒井形成外科」の酒井倫明院長はこう“感心”してみせる。
「相川さんの、こういう時の機転の利かせ方はすごいなと思いますね。天変地異を利用してめきめきと伸びていくといいますか……。ただ、これは人命にかかわることですから、なぜ相川さんのところがやるのか、納得できるだけの説明が必要だと思います」
悪夢のような計画が実行に移される日が来ないよう、祈るしかあるまい。
「週刊新潮」2020年8月6日号 掲載
新潮社
https://friday.kodansha.co.jp/article/87095
京大・山中伸弥教授を恫喝 霞ヶ関を牛耳る“最悪カップル”
菅官房長官の信頼の厚い和泉洋人・首相補佐官。和泉氏と“ただならぬ関係”にある大坪寛子・厚労省審議官。2人が日本の医療行政を歪ませている
山中伸弥先生を恫喝する人物が、「湘南美容」利権に関わる・・・・。
この人的相関図を見る限りは、噂とか疑惑とかの問題ではない。
菅官房長官は,この記事によって、決定的に信用できない、と思ったので、真偽をぜひとも知りたいものです。