当時、軍需工場の募集に自ら志願して、単身日本 に渡った……

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2018年10月、韓国の大法院が日本製鉄に対し、旧朝鮮半島出身労働者1人あたり1億ウォン(約900万円)の支払いを命じたいわゆる徴用工裁判で、日本製鉄が8月7日までに即時抗告を行い、差し押さえが回避された。

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19年4月、韓国南東部の全羅南道と光州市の12人が、三菱重工業と住石ホールディングスを相手に慰謝料請求訴訟を提起した裁判でも、三菱重工業は過去4回の公判に欠席したが、7月23日の第5回の公判に代理人が出席した。

被告が出席しない民事訴訟は、原告が勝訴する可能性が高い。三菱重工業に続いて、住石ホールディングスも9月の公判に代理人を出席させる予定である。

大邱地裁浦項支部は今年6月、日本製鉄に対して差し押さえ命令を送達し、日本の外務省に送った海外送達要請書は同省が返送した。送達から2か月が経過すると、掲示や公告などにより伝達されたとみなす規定があり、8月4日に差押え命令の効力が発生、1週間後の8月11日に確定するとみられていたが、即時抗告で命令の効力は停止した。

■ 「元徴用工」の主張に反論を述べる人も少なくない

「元徴用工」とその遺族は、強制的に連行されて十分な給金を受け取ることはなく、また食事や住環境が劣悪で奴隷のような扱いを受けたと主張する。一方、この主張に反論を述べる人も少なくない。

当時、朝鮮半島の農家は貧困を抱えており、現金収入を求めて多くの若者が日本に渡った。なかでも日本の炭鉱や金属鉱山は高額な現金収入を得られる出稼ぎだった。

私がお話を伺った在日3世の崔さんの祖父もその1人だ。崔さんの祖父は軍需工場の募集に自ら志願して、単身日本に渡った。現金収入を手にした崔さんは故郷から兄弟を呼び寄せ、5人兄弟の1人を残して日本に渡ったという。地元では得られない高額な収入が目的だった。崔さんは正規のルートで渡航したが、仕事を求めて密航した人も多く、密航船が沈没して百数十人が命を失う事故もあった。

当時の炭鉱や鉱山は掘り出した石炭や鉱物の量に応じて給与が支払われる歩合制で、強制的に徴用された労働者も働けば働くほど、収入が増えるシステムに馴染んでいった。

日本人より多くの給与を受け取った人もいた。日本人より身体が大きい人や、また戦況が悪化するにつれて若い日本人は戦場に駆り出され、体力的に勝る若者は半島出身労働者が多くなった。

■ 当時の賃金を研究した李宇衍(イ・ウヨン)氏の主張

実態を裏付ける書がある。統治時代の賃金を研究した李宇衍(イ・ウヨン)氏は、著書『ソウルの中心で真実を叫ぶ』(扶桑社刊)で実態を明らかにし、日本企業に賠償金の支払いを命じた判決を誤審だと述べている。

同書によると、1939年7月から朝鮮半島労働者の「募集」がはじまり、42年2月には「官斡旋」、戦況が押し迫った44年9月から「徴用」がはじまった。労働条件や賃金形態は同一で、日本人と同じ労働条件の適用が義務付けられていた。企業による「募集」や朝鮮総督府が選抜する「官斡旋」は本人の意思が重要視され、応募者は契約書に署名して日本に渡った。

炭鉱や金属の平均賃金は韓国人より日本人の方が高かったが、同書はその理由も明らかにしている。ある鉱山の半島出身労働者は全員が2年未満で、日本人は46.2%が2年を超えており、経験の差が歩合給の多寡につながったと李氏は考える。

また、機械化が進んでいた炭鉱で、経験年数が短い半島出身労働者が機械操作を習得する時間は限られ、高い賃金が支払われる職種は勤続年数が長い日本人に集中した。

十分な給金が支払われなかったと主張する事由に、当時の軍政府が奨励していた強制貯蓄がある。軍需産業の炭鉱や鉱山、工場などでは支払い給与から貯蓄分を天引きし、また家族への仕送りを差し引いて、残った額を労働者に支給していた。強制貯蓄は退職時に返還するが、天引きされる貯蓄額は給与の3割から最大4割強を占めていた。

半島出身労働者の54%が炭鉱や鉱山で働いたが、坑内労働は肉体的にも精神的にも辛く、夜逃げ同然で職場を離れた人たちもいる。夜逃げ同然で行方知れずになった人たちに退職金を払い、貯蓄を返還する術はなかった。

さらに日本がポツダム宣言を受諾して敗戦が決まると、職場を離れて帰国する人が続出した。昨年1月、韓国の高等裁判所は不二越に対して、6人の元労働者1人あたり1億ウォンの支払いを命じる判決を下したが、退職に伴う金銭を受け取らずに帰国した不二越の労働者は485人に上ったという。

日本政府は元労働者の請求権は日韓基本条約で消滅したという立場で、韓国の法曹界も請求権が消滅したという意見と個人請求権は別という意見に別れている。

『ソウルの中心で真実を叫ぶ』を執筆した李宇衍氏は経済学者で、同書は現存資料を分析した内容が綴られている。1939年から45年の間に日本に渡ったすべての半島労働者を網羅しているわけではないが、資料は広い範囲に渡っている。先にお話をうかがった崔さんと同じように現金収入を求めて日本に渡り、戦後、日本に残った人たちとその子孫で、日本企業に対する一連の訴訟を冷ややかに見ている人たちもいることを忘れないようにしたい。

佐々木和義

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